「テニス肘で悩んでいる方はいませんか?」

テニス研究会レポート No.1 1991/07/01 

今回のレポートでは、たぶん多くの方が悩んでいるだろうテニス肘について、いくつかの論文から検証していきたいと思います。
1. テニス肘とは?
一般に用いられている”テニス肘”は、肘の主に外側(上腕骨外側上顆部)あるいは時に内側(上腕骨内側顆部)の痛みと局所の圧痛を示す症侯をさす。外側型をバックハンドテニス肘、内側型をフォアハンドテニス肘と呼ぶこともある。外側型の方が内側型より7ー10倍多く見られる。
2. 個体要因について
性別、技術レベルの違いによるテニス肘発生については、余り差が見られない。つまり、上手も下手も、男も女も、どのレベルでもテニス肘で悩む事があるということである。しかしながら、テニスレッスンの経験上、女性の発生率が高いように思われる。
これは、女性が筋力的に男性よりも劣るということ、テニスのプレー頻度が年々高くなってきていることが影響していると考えられる。
また、年齢が高くなるにつれてテニス肘発生頻度が高くなるという報告があるが、高年齢の女性がテニスを楽しむ人が増えてきているのも女性にテニス肘疾患が多くなってきている原因とも考えられる。
また、体重の大きい人ほど、テニス肘発生の可能性が高い事も見逃してはならない。
3. 方法要因について
プレー頻度が多くなるほど、肘の痛みの発生頻度が高くなる。特に、週3回以上になると、発生頻度が30%以上になる傾向がある。
また、1日のプレー時間が長いほど、テニス肘が起こりやすい。
特にその傾向が顕著であり、1日2時間以上プレーする者は、2時間以下の者に比べて、テニス肘を起こす危険率は3.5倍となる。少しでも肘に痛みを感じたならば、練習は週に3回、1回の練習時間は2時間以内に押えるべきであろう。
4. ラケットについて
ラケットの材質とテニス肘発生率の間には、一定の傾向は見られていない。ただし、衝撃吸収性に優れた材質のもの、その様な材質を部分的にも使用しているものの方が望ましい。
ラケットについては、その重量と、グリップサイズ、フェース面積、ストリング材質、ストリングテンションなどの影響が大きいと考えられる。重量は軽目のもの(383g前後がよいという報告がある)を、グリップサイズは最適のものを(多くのプレーヤーで、グリップサイズの小さいものを使用する傾向が強い、10ー13cm程度がよいとされている)、そして、ラージサイズのものを使用する事が望ましいと考えられる。
ストリングスについては、最近よくみかけるようになった、柔らかい素材をつかったもの(マイルドガット)を使用し、テンションを最適テンションの最低ライン程度にする方が良いと考えられる。また、最近はやりの厚ラケはラケットビブレーションが比較的少ない事と、トップスピンが打ちにくい事から肘への負担が少ない打球フォームを形成しやすく、テニス肘の発生が押えられると考えられている。
5. コートサーフェイスについて
コートサーフェイスについては、固い材質ものものほど、ボールの反発にともなうラケットの衝撃力が増し、肘に負担をかける事になる。もちろん、日頃使用しているコートが改修されるか、使用コートを変更するしか仕方のないことであるが、できるだけクレーコートに近い感覚のコート上でのプレーを心掛けた方がよいであろう。
たとえば、最近目にする機会の多くなってきたオムニコートなどは障害防止の観点からも推奨されている。ただし、コート表面に吸水性の高い砂を使用しているために、雨上がりに使用すると、ボールが湿った状態になり、衝撃力が増すので注意されたい。
6. 治療について
外側テニス肘は中高年(平均38.8歳)、内側テニス肘は若年者(平均23.1歳)に多い。これは、若年者はトップスピンを打続ける傾向が強く、肘の強い念転が肘の尺側側に負担をかけている事が原因であると考えられている。
治療法は、 1)内服薬
2)外用薬
3)ストレッチ
4)筋力強化
5)ステロイド剤局注
6)テニス肘用サポーター
7)温熱療法
8)冷却療法
であり、指示された治療は、外用剤が最も多いという報告があった。
巧く併用すべきであると考える。
7. プレー上の注意点
テニス肘を予防するためのプレー上の注意点として
1) テニスに必要な筋力、柔軟性、協応性などを充分に高めておく。
特に筋力の強化は必須であると思われる。
2) 正しいフォームを身につける。肘に負担をかけないフォームというのは一概にはいえないが、肘の過屈曲、過伸展を伴うようなフォームはテニス肘の原因となりやすい。
3) 筋力のない場合は、特にバックハンドでは両手打ちで打球するようにする。また、肘に痛みがある場合は、フォアハンドもバックハンドも両手打で練習するように心掛けた方がよいであろう。
4) サービスについては、肘を曲げて担いだ状態から、トスをあげて打球するのがよい(サービスのスピードは、初級者から中級者にかけては、この様な打ち方をしても、さほどスピードは落ちないという報告があるので、安心して練習されたい)。
5) ラケットをラージサイズに代えるか、ストリングスを柔らかめのものを使用し、緩いテンションで張ることを薦める。
テニス肘は、テニスプレーヤーにとって切っても切れないものである。テニス肘を起こす原因に種々ある。もし、ラケットが不適当であれば、適当なものを買い、適宜な堅さにストリングスを張るのがよい。
さらに、
正しい技術、フットワークなども重要で、練習と指導によって改善できる。知識を吸収して、積極的に活用して、充実したテニスライフを送ってもらいたいと思います。
「参考文献」
1)テニス肘の病因:武藤芳照ほか,1987,
臨床スポーツ医学 4(8):869-877
2)テニス肘の診断と治療:萬納寺毅智,1987,
臨床スポーツ医学 4(8):878-884
3)テニス肘のリハビリテーション治療と治療:栗山節郎ほか,
1987,臨床スポーツ医学 4(8):885-890
4)用具による安全対策−ラケットとテニス肘−:友末亮三ほか,
1987,臨床スポーツ医学 4(8):885-890
5)テニス肘の治療と予防:ベケット・ホワース/フレッド・ベンダー著
 片山良亮訳,1984,保健同人健康ブックス

※TNJ様のご好意によりデ−タベ−スから抜粋して記載しました。